消化器内科の主な対象疾患
- 急性胃炎
- 慢性胃炎
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 胃がん
- 感染性胃腸炎
- 過敏性腸症候群(IBS)
- 機能性消化管障害
- 大腸がん
- 急性胆のう炎
- 急性すい炎
- 潰瘍性大腸炎
急性胃炎
胃は、食べ物の消化と殺菌のために強い酸性の胃液を分泌しています。胃酸はpH1~2の塩酸という強い酸性の液体ですが、胃粘膜は粘液に覆われており、自己消化を起こすことはありません。粘液はこうしたバリア機能だけでなく、粘膜を修復する役割もあり、胃粘膜を守っています。そのように、粘液は優秀な守り手ですが、限度を超えた刺激を受けると防御できずに炎症を起こします。これが胃炎です。
また、胃は精神状態と密接にリンクしており、ストレスによって胃炎が起こることもよくあります。胃の症状は、さまざまな疾患に共通しています。がんなど深刻な疾患はかなり進行しない限り、症状がないこともよくありますので、痛みや違和感があったら早めに診察を受けることが重要です。
胃炎の進行
初期には、粘膜の表面がただれてしまう、びらんが起こります。びらんを繰り返していると胃粘膜の修復力が低下し、バリア機能を担う粘液も減ってしまい、やがて胃潰瘍に進行してしまいます。
胃炎には急性胃炎と慢性胃炎があり、それぞれ症状や治療法が異なっています。
急性胃炎は、胃粘膜に急性の炎症を起こした状態で、胃部不快感などを伴います。原因としては、消炎鎮痛剤などの服薬や飲酒、ストレスなどが考えられます。原因がはっきりしている場合は、まずはその原因を取り除き、その後は症状に合わせた薬を服用します。
慢性胃炎
食べ物などの刺激によって慢性的な炎症が起こり、胃粘膜が減ってしまう状態を萎縮(萎縮性胃炎)といいます。また、粘膜の傷が修復される過程で、胃粘膜が腸粘膜に似たものに置き換わってしまうことがあり、これを腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)といいます。こうした胃粘膜の萎縮と腸上皮化生が、慢性胃炎の正体です。
近年では、胃粘膜の萎縮と腸上皮化生の発現に、ピロリ菌が大きく関与していることがわかってきました。ピロリ菌が胃粘膜に存在することで、萎縮・腸上皮化生の進行が進んでしまいます。慢性胃炎は、萎縮・腸上皮化生・ピロリ菌感染の3因子が複雑に絡み合っています。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍
胃潰瘍・十二指腸潰瘍とは、ヘリコバクター・ピロリ菌、非ステロイド性抗炎症薬、胃酸などによって、胃や十二指腸の粘膜が傷つけられ、えぐられたようになる疾患です。
胃の痛みや不快感を伴いますが、薬の服用などで治すことができますので、しっかりと治療することが大切です。また、主な原因はピロリ菌の感染と考えられているため、検査をしてピロリ菌陽性であれば、除菌を行います。
胃がん
胃がんは、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞に変化する疾患です。日本人が最もかかりやすいがんのひとつとされています。
早期の胃がんは症状がないため、多くは健診や人間ドックを受けた際に発見されます。そのため、毎年定期的に健診を受けることは胃がんの早期発見のために最も重要なことです。早期胃がんの予後はとても良く、完全にがんを切除できた場合の治癒率は9割を超えます。また、ヘリコバクター・ピロリ菌は胃がん発生の原因になることが判明しております。よって、ピロリ菌が存在する場合は、胃がんリスクを減らすためにピロリ菌の除菌が行われます。
早期胃がん
がんが胃粘膜表面にとどまっている状態で、この段階であれば内視鏡手術で完治も期待できます。日常生活やお仕事に大きな影響を与えることなく、治療が可能です。
進行胃がん
早期胃がんは、徐々に粘膜表面から筋層に向けて浸潤していき、胃以外の臓器への転移やリンパ節転移へと進行していきます。進行胃がんは、胃壁の筋層より深くまでがんが進行した状態です。進行胃がんは内視鏡的な切除では治療できないので、開腹による外科的手術や化学療法などが必要になります。胃がんは、この進行胃がんの段階まで進んでも、ほとんど自覚症状がありません。そのため、年齢が上がってきて受けた胃内視鏡検査で進行がんがみつかることも珍しくありません。
スキルス胃がん
通常の胃がんと異なり、バラバラになったがん細胞が胃の粘膜の下に広がっていくタイプの胃がんです。腹膜播種という腹膜への転移を起こしやすく、進行が早いという特徴があります。また、30~50歳の女性に発症しやすく、比較的若い世代でも多くなっています。
スキルス胃がんは進行が早いため、治療が進んできた現在でも死亡率が高く、また無症状なケースが多いので早期発見が難しい疾患です。リスクが高い場合は若いうちから定期的に内視鏡検査を受け、ピロリ菌に感染していた場合は除菌治療を受けることをおすすめします。
感染性胃腸炎
感染性胃腸炎とは、ウイルスや細菌などが感染して発症する胃腸炎です。下痢、嘔吐、腹痛、発熱などの症状を引き起こします。ウイルスを原因とする感染性胃腸炎に対する特別な治療法はなく、症状を軽くする対症療法が行われます。細菌が原因の場合、多くのケースで抗菌薬が有効です。3~5日で症状が治まることがほとんどです。
過敏性腸症候群(IBS)
主にストレスが原因となって、腸が慢性的な機能異常を起こしている状態です。炎症や潰瘍などの器質的な病変を伴わない疾患です。
下痢や便秘、腹痛、下腹部の張りなどの症状が起こりますが、原因は、不安・緊張などのストレス、疲労、暴飲暴食、アルコールの過剰摂取、不規則な生活習慣などです。
治療は、食事療法や運動療法をはじめとする生活改善を行いますが、十分な効果が得られない場合は薬物療法が行われます。
特徴的な症状として、腹痛や腹部の違和感が繰り返し起こり、排便によってその症状が解消されるというものがあります。症状が現れている間は、排便頻度や便の形状変化などが起こります。下痢型と便秘型があり、さらに下痢と便秘を繰り返す交代型と混合型があります。腹部の膨満感があったり、ガスが不意に出てしまうといった症状が起こることもあり、睡眠中にはこうした症状が出ないことが多いです。
内因性の腸内細菌叢のバランス、摂取した飲食物、ストレス、外因性の粘膜の炎症や遺伝など、さまざまな要因によって起こっているとされています。内因性の要因がきっかけとなって腸の働きを司る自律神経に異常が起こってしまい、ぜん動運動が乱れて症状が起こると考えられていますが、はっきりとした原因はわかっていません。
胃腸の働きは緊張や不安だけでなく、過労や不規則な生活、睡眠不足、偏った食事などによって影響を受けやすく、これらは腸のぜん動運動を変化させてしまいます。ぜん動運動が鈍くなると便秘が起こり、活発になりすぎると下痢を起こします。こうしたきっかけによって、下痢や便秘などの便通異常を繰り返し起こすと、徐々に腸が刺激に対して敏感になるため、長期化すると悪循環を起こしやすくなります。このような状態が1カ月あたりで3日以上あり、それが3カ月以上続くと過敏性腸症候群の可能性が高いといえるでしょう。
過敏性腸症候群の場合は、市販薬で症状を抑えて我慢されている方が多いのですが、専門的な治療により改善することができる病気です。生活に大きな支障を与えているケースも多いので、専門医による適切な診断と治療を受けることで快適な生活を取り戻しましょう。
その他の胃の疾患
胃悪性リンパ腫
あらゆる悪性リンパ腫のうち、胃に発生するものは約8%で、ピロリ菌感染が大きくかかわっています。
ピロリ菌に感染しており、他の臓器に転移を起こしておらず、進行速度が遅くて悪性度が低い場合、ピロリ菌除菌成功で腫瘍が退縮し、長期生存率が90%以上になるとの報告があります。この場合の再発率は3%程度です。そのため、内視鏡検査でピロリ菌感染の有無を調べることが重要です。
胃悪性リンパ腫の治療では、ピロリ菌除菌の他、開腹による外科手術、科学療法、放射線療法などを行います。腫瘍や疑わしい病変があった場合には内視鏡検査時に組織を採取できますので、生検を行った上で正確な診断をし、適切な治療を選択することが必要です。
胃腺腫
胃腺腫とは、胃粘膜に発生した良性の腫瘍であり、すぐにがん化するケースはさほど多くありません。しかし、10年以上経過すると数10%ががん化するとされているため、定期的な経過観察が重要です。形態や大きさによってがん化する可能性が高い場合には、内視鏡による切除も可能です。内視鏡検査時に組織を採取して病理組織検査を行って、がんと鑑別します。
胃潰瘍
胃潰瘍は、主にピロリ菌感染や痛み止めの非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)によって起こります。胃の粘膜が傷ついて、一部の粘膜や粘膜下の組織がなくなっている状態です。ピロリ菌感染がある場合、除菌治療を行うことで胃潰瘍の再発防止と、胃がんリスクを軽減することにつながります。
痛み止めの非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)は、胃の血流を阻害して胃粘膜が傷つきやすくなりますので、胃潰瘍になった場合には他のお薬を使うことが望ましいのですが、中には常用の必要があるケースもあります。その際には胃酸を抑える薬を併用するなどして、できるだけ胃に負担をかけないようにしていきます。
胃静脈瘤
胃静脈瘤は、肝炎などによる肝硬変から起こる胃の疾患です。肝硬変になると、肝臓に血液が流れにくくなり、行き場がなくなった血液が胃や食道に流れ込んでしまいます。胃静脈瘤は、それによって胃の静脈に異常な膨らみができてしまう状態です。
肝硬変の進行によって胃に流れていく血液が増え、膨らみが大きくなって破裂すると命にかかわることがあります。そのため、早期発見・早期治療がとても重要な疾患です。破裂の可能性がある胃静脈瘤の場合には、内視鏡による治療を行って破裂を予防します。
胃粘膜下腫瘍
胃粘膜より深い層にできる腫瘍で、粘膜を突き上げるように成長していきます。そのため、内視鏡検査では粘膜が盛り上がっているようにみえます。ほとんどの場合、定期的な経過観察で変化をみていきます。まれにサイズが大きくなって、肝臓やリンパ節への転移を起こす悪性の胃GIST(消化管間質腫瘍)になるケースもあり、その場合には手術や分子標的治療を行います。
表層性胃炎
胃粘膜表面に炎症が起こっている状態です。ほとんどが線状の発赤として現れ、暴飲暴食やストレス、不安などが原因とされています。胃酸過多の状態でなりやすく、特にピロリ菌陰性で胃酸の分泌が多い方がなりやすいとされています。胃酸過多の治療とともに、食生活をはじめとする生活習慣の改善も重要です。
萎縮性胃炎
ピロリ菌に感染すると慢性的な炎症が続きます。そして加齢によって胃粘膜は萎縮し、薄くなっていきます。すると、胃がん発生リスクが高まります。萎縮が進行すると、胃粘膜が腸の粘膜に置き換わってしまう腸上皮化生が起こり、粘膜の状態が荒れていきます。この腸上皮化生が起こるとピロリ菌すら生息できなくなり、検査ではピロリ菌陰性と出てしまいます。ただし、以前ピロリ菌に感染していて、萎縮性胃炎の進行によってピロリ菌陰性になった状態は、胃がんリスクが最も高いので注意が必要です。
萎縮性胃炎の治療で重要なのは、胃内視鏡検査を受けて胃粘膜の状態を正確に診断することです。萎縮の範囲や状態、腸上皮化生の有無を確認した上で、適切な治療を行っていきます。
鳥肌胃炎
胃の炎症のひとつです。鳥肌胃炎が発生するのは、前庭部という胃の出口周辺が多く、鳥の肌のようにリンパ濾胞が増生した炎症がみられます。ピロリ菌感染とのつながりが指摘され、胃がんの中でも進行の早いスキルス胃がんにもかかわっている、胃がんリスクが高い炎症です。
鳥肌胃炎は、ピロリ菌陽性であれば除菌治療が有効で、除菌成功によって痛みが解消するケースがあります。また、スキルス胃がんのリスクを考えると、定期的な胃内視鏡検査がとても重要な疾患です。
胃憩室
胃憩室は外側に向かって飛び出しますので、内視鏡ではくぼみとして観察されます。胃粘膜の下にある筋肉の層が薄くて弱い入口の噴門部・出口の幽門前庭部にできることが多いとされていますが、胃憩室ができたことによる症状は特にありません。
胃底腺ポリープ
良性のポリープで、小さくなって消失することがあります。ほとんどの場合は良性のままです。ピロリ菌に感染していない健康な胃にできやすく、女性ホルモンとの関連性が指摘されていますが、はっきりとした原因はまだわかっていません。
胃アニサキス症
魚の生食によって、寄生虫が感染して起こります。サバ、イカ、サケ、アジ、タラなどに寄生しており、冷凍や加熱することによって感染を防ぐことができます。肉眼で見える程度の大きさなので、適切な処置が行われていれば生食した場合でも感染するリスクはほとんどありません。
感染した場合、胃に強い痛みが現れます。人間の体内でアニサキスが生き続けることはできないので、いずれ痛みは治まりますが、かなりの激痛を感じる場合もあります。内視鏡でアニサキスを除去することで痛みはすぐに引いていきますので、お刺身などを食べた後に胃に強い痛みが起こった場合は早めに受診してください。